Layers of time and colour.

世界一のハンガーを彩る。

70年以上の歴史の中で培われた、洗練された想いと技術をご紹介いたします。

塗装編

ナカタハンガー(中田工芸)職人

職人としてのこだわり

“木の個性を活かした使い方をすること”を一番大切にしています。同じブナ材でも、木地の色が薄い茶色もあれば、濃い茶色の物もあります。木目が綺麗に出ている物もあれば、そうでない物もある。必ず、1本1本違いがあります。僕の仕事は、それぞれに手を加えて均一にする、あるいは、個性を活かすこと。そのために様々な工夫を重ねています。イメージとしては…そうですね。「服を着せる」感覚でしょうか。制服を着れば均一化されますし、好きな服を着れば個性がでる。僕たちの手で彩られてお客様のお手元に届くハンガーは、1本1本が個性を持ちながら、全体としてはまとまっているものとなるのです。個性を持ったものが集まりながら、調和を保っている。そう、ハンガーも我々人間と同じなのです。

ナカタハンガー(中田工芸)職人のブナ材に手書き
下地塗装

綺麗に整えられた木地に下地色をのせていきます。この下地色の仕上がりで最終工程の出来が左右されると言われるほど、非常に重要な工程です。ここでは木の特徴にあわせて色を調整する技術が必要とされます。なぜ下地塗装が必要なのかというと、直接木地に完成時の色をのせても狙ったとおりには発色せず、表面的なものになってしまうからです。これではNAKATA HANGERの特徴である、奥深さのある魅力的な色にはなりません。僕たちは最終状態の仕上がりで指定されている色が完成することをめがけて、何層も複雑に色を重ねています。そうすることで、塗装色に奥深さが出ます。色の深みだけでなく、何層にも重ねられた色の向こう側に見える美しい木目を引き立たせることができるようになるのです。職人が自身の目と経験で判断し、微調整を行うことで、塗装の奥に息づく木の美しさを魅せています。これは機械ではできないことで、経験を積んだ職人の技術があってこそのものです。木の色に合わせた調整は感覚と経験を用いて瞬間的に判断しており、最低限の感覚を身につけられるまでに1年はかかると言われています。

ナカタハンガー(中田工芸)職人がブナ材をカット
磨き

まずは表面を平滑にする塗膜を作るための塗料を吹きつけます。下地塗装を保護すると同時に、木に余分な水分や色を入れないための目止めのような役割も担っています。塗料を吹き付けた後の表面は毛羽が立った状態なので、サンドペーパーで角や表面を含めた全体を1本ずつ手で磨いていきます。ここで重要なのは、根気です。ハンガーは複雑な形状故に角度を変えて研磨していく必要があり、非常に時間を要します。磨き過ぎると着色したステインの色が剥げ、反対に磨きが甘いと表面がボコボコしてシルクのような滑らかさが出ません。この絶妙な度合いを守らなければ、NAKATA HANGER の特徴である表面の滑らかさが出せません。 いつまでも触っていたくなるほどの肌触りは、洋服を守るためにも必要不可欠な要素です。その重要性を認識した上で、しっかりと丁寧に磨いていきます。僕たちはお客様に良い物を届けるというミッションをしっかりと胸に刻み、長く愛着を持って使っていただけるようにより良い磨きを日々研究しています。

ナカタハンガー(中田工芸)職人がブナ材を削り出し
色調合

ここで仕上げ用塗料を調色していきます。現在は9,000色以上あり、中田工芸の歴史や技術力を物語っていると思います。その中でも選びぬかれた色をNAKATA HANGERでは使用しており、調色する際は、限られた色の塗料とツヤの度合いを組み合わせていくのですが、その際に重視するのは液色よりも木地色です。指定通りの配合で調色したとしても、塗装する木の色味によっては時間が経つと色が変わってしまう場合があるため、都度最適な色味に調整しています。例えば、このAUT-05で使われているマーズブラウンという色ですが、なるべく黒を使わずに調色しています。黒を入れてしまうと、せっかくの色味や木の特徴が潰れてしまうからです。そのため、他の色を入れて調整することで、色の明暗を調整しています。 これらの工夫は、今までのたくさんの失敗とそこから得られた経験があってこそ。職人はより美しい色を作るため、研究と勉強を欠かしません。指定された配合通りで色が完成するのではなく、これまでの経験も総動員して、微調整しながら理想の色を作ります。こだわりと我慢強さが必要な工程ですね。

ナカタハンガー(中田工芸)職人に必要なもの

職人に必要なもの

“求められている事を正確に理解する”という事だと思います。技術や知識が増えてくると、ついそれらを駆使して様々な挑戦をしたくなりますが、一度冷静になって「それはお客様が本当に望んでいることを実現できるものなのか?」と問いかけるようにしています。職人としての腕を見せることも勿論ですが、一番大切なのはお客様が本当に望んでおられるものを理解することです。その為には、「本物を見る目を養うこと」が職人としては重要であると思います。本物を知らなければ、本当にお客様が感動できる物は作れません。僕たちは一人ひとりが独立した職人でありながら、同時にチームで作業を行っています。つまり、各々が目的を正確に理解していなければなりません。一人だけで理解するのではなく、チーム全員で本質を理解することが大切だと考えています。

仕上げ塗装

仕上げ塗料の調色ができれば、いよいよ仕上げ塗装です。スプレーガンを使って一本ずつ手作業で塗装します。ムラがないように均一に塗装していくことが重要です。そのためには吹き付ける距離や角度を調整して、ハンガー全体に色が乗るようにしていきます。塗装を施す際に見るものは、ハンガー表面の光です。もちろん色も見ていますが、光り方によって風合いや木目の透け具合、塗料の量、場合によっては微細なキズや汚れなどもわかるので、重視するのは光の方です。また、乾燥後に塗料がどのように変化するかをイメージしながら塗装を行い、必要があると判断すれば再び塗料の調整を行います。ツヤの強さや色味のブレなど、実際に吹き付けて初めてわかる調整点があるので、最後まで理想の仕上がりを追い求め続けています。木部としての品質に関わる加工はいよいよ最終段階です。木の美しさと色の美しさ、どちらも兼ね備えたNAKATA HANGERの良し悪しが決まる工程です。プレッシャーはありますが、これまで1本のハンガーに関わってきた職人たちの思いが感じられる工程なので責任を持って行っています。

乾燥

塗装が終われば乾燥です。乾燥室は、端材を燃やしたボイラーの蒸気で温められた部屋となっています。従来であれば赤外線ヒーターなども使われるのでしょうが、中田工芸では木材を最後まで無駄にしないために、ボイラーの熱を利用しています。湿度や温度を都度コントロールしながら3時間ほどかけて乾燥させますが、ツヤのある色になると16時間以上乾燥させることもあります。季節や時間帯によって湿度も温度も変わるため、一時間に一回は乾燥室の温度と湿度をチェックしています。早く乾かすためには温度を高くすればいいのではないか、とお考えになる方もおられるかもしれません。ですが、これまでの工程で色を塗り重ねられた木部はまだ呼吸をしているのです。ですから急激に温度を上げたりしてしまうと、ひび割れが発生したり、木部の中の空気がでてきたりしてしまいます。僕たち人間のお肌と同じように、木もまた生きているものなのですよ。丁寧にゆっくりと、焦らずじっくりと乾かしてやるのがいい色に仕上げるポイントです。乾燥室に沢山のハンガーが吊るされている絵は圧巻ですね。

取りおろし

乾燥が終われば、組立工程へハンガーを渡す前に一度検品を行います。ここでも1本ずつ人の手で検品を進めていきます。色、艶、風合いはもちろん、表面の状態や異物の付着の有無、角のざらつきなどを確認します。もしも基準に満たないものがあった場合は、捨てるのではなくもう一度はじめから塗装をやり直します。確かに手間はかかりますが、少しでも木を大切に使いたいと考えているからです。検品の工程は商品に対する知識やモノを見る目、そして判断力が必要となります。ハンガーを手にとってくださったお客様に満足していただけるように、笑顔になっていただけるようにと思いながら、細かなところまでしっかりと確認しています。「お客様が出会う一本のハンガーが、その方に幸せをもたらす」そんな瞬間を思えば、自然と検品も厳しくなりますね。検品は、僕たち職人が一生懸命作ったハンガーを、自信を持ってお客様に送り出すために欠かせない非常に大切な工程です。職人の手で作られ、その目で見極めた本物のハンガーがお客様の手に渡るまで、あともう少しです。

お客様へ伝えたい想い

『たかがハンガー。されどハンガー』
僕は、その奥深さに魅了されました。工程が沢山ある事、1本1本手作業で作られている事、そして職人の熱い想いが詰まっている事…。一度現物を手にとっていただけたなら、想像を遥かに超えるクオリティと美しさ、そして奥深さ故に『おっ!』と思わず一言、漏れるはずです。ハンガーそのものに、本物であると納得していただけるだけの説得力がある。このハンガーにお気に入りの服をかけたときや、生活空間にハンガーがかかっているときなどに、幸せを感じることができると信じています。いつまでもこの製品が後世まで残るような作品に仕上げていく。それが僕たち職人のミッションです。